| −9− Reverse |
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| 男──黒曜の騎士は。相対する二人を片手で牽制しつつ。 振動する携帯電話を取り出し耳に当てる。 「はい」 『中断です』 「わかりました」 短く答え。電話を切る。 息を吸い込み手にした斧を──変化させる。大斧から投斧──フランキスカに。 振り払うように斧を投げつけ、二人が回避したところに弧を切って舞い戻る斧。 床に突き刺さり盛大に瓦礫を生み出す。 視界が閉ざされた一瞬をみはらかい。騎士は階段を通り階上へと駆け上がった。 二人はその手際に呆れつつも弾かれたように追う。 デパートの屋上。 人気のないアトラクション広場の所まで二人は辿り着いた。 少年の一人──津嶋は見渡すと。 耳の片隅に ちりんと。 「──鈴の音?」 見れば。演上に一人の年端も行かない少年が。 その少年の肩に灰色の猫。背後には先ほど追ってきた男の姿。 「”永久に輝く黄金”は”烈火の仮面”に始末されました」 少年から告げられるその言葉を聞いて。安堵する。 今回はやったんだ。 「星の継承試験も頓挫しましたので我々はこれにて失礼します」 少年は軽く会釈する。それが上に立つものの務めであるかのように。頭を下げた。 「ふざけないでよ!」 試験も試練もゲームの事だけならいい。でもこれは現実の話で。 人が死に、人が傷つくリアルの話なのだ。 それをなんでもないように。眼前の少年は。告げた。 津嶋皓は其れを許せず。傷に耐え。叫んだ。 どす、と少年の前に矢が突き刺さった。 津嶋皓に追随してきた少年…北条亮が油断無く弓を構える。 「でもさ。監督してたなら上の者が責任取るべきだよね」 もう一本。緩やかに弓弾く。 「僕──結構怒ってるよ」 「これが僕の役目ですから」 感情のこめられていない淡々とした口調。 では、失礼します。 そうもう一度いい。 「恭平さんによろしく言っておいてください」 空間を割り裂いて猫と少年と男は消えた。 ちりんと。 音を残して。 暫く。消えた空間を見ていて。 気が抜けたようにごろんと大の字になって倒れた。 結局の所。自分達は。 全ての事がかたつくまでの時間稼ぎにさせられていただけなのだろう。 わかっている事は極僅かで。 でも実際にはどうでもいい──。 皓の携帯が鳴った。 連城から。エージェントは始末して襲われていた少女──四季守に命に別状はない、との事。 ああ。よかったなぁ。 それだけ思って津嶋皓は意識を放棄した。 遠くで亮が声をかけているようだが。 「君も彼女が助かってよかったと思ってるんだろう?」 と唇だけ動かした。 遠くで救急車のサイレンが聞こえた。 |
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