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「”永久に輝く黄金”?」
「ええ。ファルスハーツエージェントにして悪名高いアルカナセルの札の候補ですよ。それが市に隣接する街にて確認されました」
「──へー」
「テッドさん聞いてますよね」
「聞いてるよー」
「じゃあお仕事お願いしますね」
「めんどくさいからやだー」
「テッドさん・・・・・・・」

UGN黒巣市支部。アンティークホテルの形態を取るこの場所で連城聖とテッドの二人は支部長代理こと天城美鈴より
今回の仕事の説明を受けていた。
亜麻色の髪を持つ彼女は顎に手をやり思案して。

「たーしかキョーヘイがそのセル一度ぶっ壊した筈だったけれどー」
「それに天城さん。そのステイゴールドって以前UGNで対処した、と資料にかかれているのですが…」
呼ばれた思い思いの質問をぶつける。

「質問に一つずつ答えますね」
「まず。以前”烈火の仮面”他数人のエージェントにより進行していたステイゴールドの計画を破綻させ包囲し、深手を負わせました」
一息ついて。積み重なった資料の束から二枚の封筒を取り出す。
「しかしながら始末までいたりませんでした。包囲網の一角が配備不十分だったので」
不満そうなテッドを尻目に。聖が言葉の先を促す。
「”無垢なる心”──神原さんが職場放棄していましたので」

沈黙。

「全部終わったらあいつしめよー」
「そうですね」
「まぁ。それは後にしてください」

二人に珈琲を勧めながら。話を続ける。

「『偶然”虚構の月”がステイゴールドに襲われていた』所を割り込んで助けた、という人命救助があっての事ですから大目に見てください」
美鈴は内心苦笑しつつ。態度は違えど苛立ちを隠せない二人に微笑む。この支部区域のお得意の独断独走とは言え無理も無い。
「でもー」
「それとも、『仕事は如何なる時、何においても優先するべき』と考えますか?お二人とも」

「違うの?」
不思議そうにテッドは首を捻り。話が回り道になっている事に退屈を覚えてきた。
「──いえ。すいません。話を続けて下さい」
思案し。聖は改めて話を聞く体勢に。恭平と同じUGNイリーガルの身としては自分がそのように行動しない保証は無い。

「兎角。逃げ切ったのですよ。当時動員していたセル構成員は彼を除いて壊滅しましたし問題ないと上は判断されました」
「それが半年ほど前。そして今になって活動が確認された──」

美鈴は頷いて。
「そういう事になります。アルカナセルの一員として、ですが」
申し訳無さそうに聖は項垂れて。
「そのアルカナセルというのはどのようなものなのですか?再三名前だけは出ているのですが」

美鈴は関わり合いのあったテッドに説明させようとし。頭を振って。
「ファルスハーツのセントラルドグマ…中央に近しいとも言われている”アルカナ(arcanum)”を筆頭とした古豪のセルです。
入れ替わるも人員の数が固定されているのが特徴ですね」
「固定…ですか?」
「構成エージェントの数はタロットの大アルカナの数の22。それ以上でもなくそれ以下でもない。
各個人がそれぞれ独自の目的・意志を持って”選抜”され所属される。22人に1人の主によって構成される少数精鋭のセルとも言えますね」
「ともなると、ステイゴールドがその22人の内に入っているという事は。相応の力を持っている、という事ですね。力というだけでなく影響力も」
「ええ。だから以前の作戦の際に始末しようとして失敗しました。言い換えれば私達の追及から生き延びたのでアルカナセルに招聘された、とも言えますね」
私達も有名人ですから、と付け加えて。

「でもさー。みすずちん。続きだけれどキョーヘイらがぶっ壊したからセル無いんじゃないのー。今更話しでてくるっておかしくなーい?」
「札は継承される。これもアルカナセルのルール。22人と1人が統一した意思によって行動するものではありません。
22人が己の札の役割に従い独自に継承するのですよ。そして1人は承認する。──試験を経て」
「さっきの話ではステイゴールドは候補っていってたよねー。だったら今回捕捉したのってその試験の為に現れた、と考えてるんだよね」
「ええ。試験内容の確認とステイゴールドのプロファイリングも完了しています。彼は自己顕示欲が強く力の誇示を執拗に行なっています」

ペンを滑らせ。書類を書き上げる。
「次なる星の継承。試験内容はファルスハーツ実験場の被検体──”虚構の月”の確保。そしてArcanumを祟殺しセルを瓦解させた”神原 恭平”の抹殺です」
一つの血と一人の首を持って”札”は帰還する。
「お二人には彼らの護衛を主にお願いします。ステイゴールドの始末には──”鬼札”を出します」

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