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「で。サっちゃんこっちの方が良くない?」
「でもそれ派手じゃないですか…?」
「イケるイケる♪ほらほら試着試着♪」
「あ、はぁ…」

隣街・特急ハンズの…婦人服売り場。
神原 恭平は周囲の視線と隣のピンクと白の下着の売り場に精神的に辟易しながら突っ立っていた。
何。この羞恥プレイ。

もう既に買い物かごに入りきらない分量の衣類を持たされている今。
溜息しか出なかった。

秋穂曰く。
「あ。それ全部買うわけじゃあないから。試着用ね。恭ちゃんは見て一つずつ感想意見言う事」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ。

エアコンの良く効く店内で思わず叫びそうになった恭平。
ちゃうねん。うち。おす○とピー○な人ちゃうねん。ほんまやで。ほんま堪忍な。
脳内で誰かと会話しつつ。ひたすらに女の子二人の嬌声を聞き続けた。
途中から「あー、うん。いんじゃね?」から「そうそう」「そうですね」「話は聞いてます」「あー」にうなづきがクラスチェンジして。

「俺ちょっと休憩していいか?そこの自販機のトコにいるから」
と二人に声を掛けて一時離脱。荷物は一旦預け。だばだばだー、と休憩場に滑り込む。
平和茶とかいうマイナーな茶を自販機から購入。キャップを開けて一息つく。

年頃の娘っこのショッピング同伴は以外に疲れるもの。
恭平も秋穂のショッピングには度々付き合ってきたので耐性はついているつもりだったが。
二人にもなるとその効果も倍増である。

別に嫌ではないんだがな・・・。
恭平は一人呟いた。

幼い時レネゲイド事件で友達を失い、心身ともに心に傷を負って一家で引越ししてきた恭平を。
子供ながらの図々しさと一握りの親切心、そして情でもって立ち直らせてきたのが秋穂。
恭ちゃん、秋穂とじゃれあうように成長してきて。今。彼女のお陰で世界にまだ居場所がある事に気づかされた。
感謝している。それに尽きる。
だが。ある事件により救いきれず。非日常の境を踏み越えさせてしまった。
今では恭平と同じく超越者。オーヴァードである。
彼女は気にはしていないといったが…恭平は──今でも。本当は。自分の無力を。後悔している。
だから。尽きない感謝と同時に。少しだけ。──拒絶される事が怖い。

そして。サキ。
家族という居場所を失った彼女は一人街に辿り着き。恭平によってその弱弱しい手を拾い上げられた。
幼くして力に目覚め、誰かに生きかたを強要されて。助けを求める事を許されなかった其の手は。小さくて冷め切っていて。
かつて恭平が秋穂に助けられたように。助けてあげたい、そう思って。家族になった。


救うなんて大層なものでなく。ただ彼女等の居場所の一つでありたかった。
だからこの情景は望んでいたものであり。自分の居場所の一つでありたい。

軽く頭を振り。ペットボトルのお茶を一口。
人生と言う演劇にハッピーエンドの連続は訪れない。

後悔。
──神原 恭平は思春期で「生きる」という事について自分らしく生きる事を願った。
だからか試行錯誤の繰り返しだった。間違って。傷ついて。喪って。
無くして躓いてばかりの人生で不器用な生き方だと誰かから指摘された。
大切で無くしたくないものばかりを失って。それでも生き続ける。
──自分らしくって。なんだろう。

恭平はこの春に。クラスメイトでもあった親友を。亡くした。
名前を西尾 琢也。彼には想ってくれる彼女がいて。
自分は二人がいるその風景が、雰囲気が、空気がたまらなくすきだったのに。
自分の選択で。自分の選ばざるを得なかった答えで。──二人は死んだ。

ほんの少し前の事なのに。思い出すだけで──辛い。

親友を喪った時は酷い有様だった。
秋穂もサキも。父も。母も。表面上は何もかわりない恭平の変化を読み取って接してくれた。
どこかしら気を使ってくれた。助けてくれた。だからまだ。辛いのは一人じゃないとわかって。
なんとか学校にも。日常に回帰できた。
彼らのいない学校の教室は少しだけ色が薄れていた。
それでも。

彼らを殺したファルスハーツのセルを一時壊滅させ。一区切りつけた事も。
恭平にとって実は何の区切りにもなっていなかった。

幼い時は友人を自分の無力から助けられなかった。
親友を喪った時は力を持っていても助けられなかった。
幼馴染が窮地になった時は力に関わらせないようにして失敗した。

自分のなす事行なう事が大切なものにとって助けになっているだろうか。
ずっとずっと。──”考え”続けてきた。

人と人との立ち位置。接し方。感情。──ロイス。
「全て」を考えて「自分らしく」生き続けるというのは。──考えすぎだろうか。

西尾。お前なら。何か言ってくれただろうか。


「神原」

ふと声をかけられる。目についたのはどこか落ち着いた雰囲気を持つクラスメイトの女子。そして金髪の長身の男。

「奇遇だな。連城。後。テッド」

二人もまたオーヴァード。UGNと言うレネゲイドの感染者を保護する組織の関係者。
恭平とも其処で知り合った。彼らはUGNのオーヴァードのリストの中でも上位の戦闘能力を誇るジャームの始末屋。

「はろー。おれだけなんか挨拶杜撰じゃないー?キョーヘイ」
「気のせいだ」

だがそれとは裏腹に。彼らの振る舞いはそれを感じさせるものではなかった。
だからこうして世間話が出来る。なんでもないように。

「こんな買い物ー?」
続けさまに男──テッドが問う。当然だろう。ここは婦人服売り場なのだから。

「ああ。連れがな」なんだよ、そんな目で見るなよ、といいたそうにしつつ返す。
連城が連れ…?といいつつ視線の先を辿ると水着を選んでいる少女二人。
なんであいつらビキニとかみてるんだ?とか恭平は思った。サキさんあなたまだ早いですよ。

「ああ。こういうときに声をかけるのは駄目だったよな……テッドさん行きましょう」
何か悟ったような声と目で少女──連城 聖はテッドを促す。

「えー。なんのことー?ひじりん」
「空気読みましょう。テッドさん」

やや強引にテッドを手招きして立ち去ろうとする連城を見て。
「おいちょっと待てよ。なんなんだよ」
あれ。ちょっと今キムタクの口調に似てね?とふと思いつつ声を掛ける。

「いや。すまない、特に用事は無かったんだ。楽しんでくれ」

手を振りなおし。聖とテッドは売り場から足早に立ち去った。

「うーむ」
俺に何か用事でもあったんだろうか。これも考え過ぎか。
それより楽しんでくれってなんだよ。デートと勘違いしてね?あいつら。
すっかり温くなったお茶を飲みきって屑篭に突っ込む。

そろそろ戻るか。
いい加減痺れを切らしているだろう二人の元に向かい辿り着いた時には。
弁明と釈明と批評の為に。──彼らの来訪の事は忘却していた。

それが予兆であったのかはわからない。
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