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……僕なら女子とあんな付き合い方出来ないなぁ…

僕──津嶋 皓はデパートで女の子二人掛りの荷物持ちをしている後輩の神原 恭平の様子を見てふぅと息を吐いた。
先日、UGNの美鈴さんから”永久に輝く黄金”と呼ばれるファルスハーツエージェントを捕縛する、という仕事を請けた。
これは実は半年前ほどに僕も関わったトラブルにより逃がしてしまったエージェントであり少しだけ気にかかっていた所だったのだ。
その時はあいつは大量のジャームを操り、魔眼と呼ばれるモノで重力を操り、業火を生み出し、光を屈折し……
思い出すだけで多種多様な『力』を繰り出してきたものだった。


圧倒的だった。
僕を含め作戦に参加して対峙したオーヴァードはあの力に悉く倒れ、深手を負わせるも後一歩の所で逃がした。
強かった。
木刀で打ち据えても。銃弾に貫かれても。氷柱に刺し貫かれても。悠然と立ち上がった。
砂の刃で。炎の弾丸で。植物を束ねた槍で。僕らを打ちのめした。

でも。こういってはなんだが。
──『負ける気がしなかった』のはなんだろうか。

負け惜しみだろうか。これは。
軽く身震いする。僕はそこまで驕っているのか…?
半ばお守りともなった木刀を袋の上から握りなおす。
もし今もう一度遭遇したならばその驕りを飲み込んでしまおう。今日はそのために来たんだから。

横を歩く亮がふいに僕を見る。
「四季守さんが二人から離れるね。僕らは彼女を追おう」
僕は頷いて。荷物を抱えなおした。

亮──北条 亮はUGNに所属するUGNチルドレンだ。今回も前回の時も僕と同席している。
やや直情的に動いてしまう僕とは違い、幼い時より繰り返されてきた訓練の所為か冷静に事件に対処出来る。
そんな訳で今回僕の相棒として行動しているわけだが。


「女性服売り場を男二人でうろつくのって…疲れるよね…」
どちらともなくこんな言葉が生まれ出た。

対象のエージェントが狙っているのは神原と眼前の少女四季守さんの──命。
アルカナセルというファルスハーツのセル…グループを彼らが壊滅させた事で残党から逆恨みされているらしい。
”永久に輝く黄金”はその残党。簡潔に事情説明された時はこういう話になった。
美鈴さんにはぐらかされた気もするが。詳細は必要の無い事なのだろう。


僕らの他に二人、連城さんとテッドさんが護衛に当たっているみたいなのでそちらに連絡。
了解を得て四季守さんの方を追尾する。先に二人が神原に接触しているので彼女の方は、という理由らしい。

いっそ、何気ない風にして声かけて行動を共にした方が楽かもしれないな。
そうちょっと思った。

「でもさ。亮」
何、という風に振り向く。神原と三浦さんは昼食スペースの所に置き去りにしてきた。

「こういう場合は何て声掛けたらいいんだろうね」
「………」

二人押し黙った。
正直僕らはあまり異性と共に行動するタイプじゃない。
亮はUGNチルドレンだから事件の際に同伴する場合はあるけれどあくまでそれは仕事であって。
僕の場合は部活で交流する機会は少しはあるけれど。どちらかといえば体育会系の付き合いなので。

あくまでプライベートでショッピングに来ている女の子に声かけて同行する機会なんて無い。
健全な高校生が何を馬鹿な、という事も言われるだろうが。これが事実だったりする。

亮は少し思案して。



選択肢
『このまま尾行を続けよう』
『声をかけて見よう』
『………』
『メイドになればいいじゃない』



→『このまま尾行を続けよう』
『声をかけて見よう』
『………』
『メイドになればいいじゃない』

ピッ

『このまま尾行を続けよう』
『声をかけて見ようか』
『………』
→『メイドになればいいじゃない』

カチッ



「メイドになって女の子として尾行すれば問題ないよ」
それもそう……か?え。本気?

あくまでこれは”二人”が”ホームグラウンドを離れて”共に行動しているという状況で。
それを狙う”永久に輝く黄金”を誘い出す事を目的とした囮作戦なのだから。
か弱い女の子として行動すれば問題ないじゃない…・・・・・・・・



そんな訳あるかっ!?誰だよこんな選択肢選んだ奴!

ばりばりどーん。みぎゃー。


とと。
彼女は女性化粧室に入っていった。流石に今の僕らはどうにもならない。
案じるなかれ。こういうときの為に、と。資料室の人に渡されたモノがある。
決死の思いで男子トイレに駆け込む。亮も死なば諸共。


──着装。──変身。



昼食スペースより離れたエレベータ前の小スペースに
四季守さんと……向かい合っているのは僕らが探していた若い男。”永久に輝く黄金”。

ここからは少し遠くてはっきりとした声も聞こえないけれど何か言い争っている様子。


其れを見る僕らの目は。

ギラギラして。
ジャームと間違ってもなんら間違えてなかったと思う。

だって。
この憤りをぶつけられる格好の相手が現れたのだから。
悦び勇んで踊り場に乗り出した。



らめぇえええええええええええええええええええええっ
矢ムライスで逝っちゃううううぅっぅぅぅぅぅっぅぅぅぅっ
あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!


アッー




なんだか痛々しい殴打と刺殺の音と悲鳴が鳴り続く。
四季守サキは両耳を手で塞いで隅でガタガタと震えていた。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

血が舞う

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

見えたのは

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい


メイド服に身を包んだ北条 亮と
セーラー服を纏った 津嶋 皓。

運命の悪戯によって選ばれた戦士であった。


暫くNiceBoat状態だったが。
永久に輝く黄金だったものがモザイクかけてカメラの端にやんわりと映るぐらいになってから二人は動きを止めた。
なんだか清清しいほどの笑顔と汗。


「さぁ。サキさん。帰ろうか」
「うん。僕が送っていくから安心して」
は、はいと茫然自失なサキは慌てて頷く。
踵を返し悠然と去る二人の戦士。その背には自信が満ち。何も不可能はないと我々に思わせるかのようだった。


こうして事件は解決した。
めでたくもなし。






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